犯罪心理学 プロファイリング 伊藤さんの主張する犯人像
以前、なぜ民事裁判で勝訴なのに刑事では不起訴なの? - 山と糸の真
で述べたとおり、刑事事件では被疑者が犯罪を犯したかどうかの判断が重要になります。
ここでは伊藤さんの主張を元に山口さんが犯罪者である可能性を犯罪心理学(捜査心理学)の側面から検証してみたいと思います。
日本における犯罪心理学の研究は科学警察研究所や科捜研を中心に行われてきました。
伝統的にはポリグラフ、通称嘘発見器を用いたものが主流でしたが、最近はプロファイリングを用いたものも導入され始めています。
プロファイリングには大きく分けて2つあり、一つが統計分析。もう一つが事例分析です。
統計分析は主にコンピュータを用いて分析され、多数の犯罪情報から統計的に犯人の属性や行動パターンの推定を行うものです。
事例分析は心理学を利用し犯人の行動特徴を分析するものです。古くはFBIの連続殺人犯の分析が有名です。この分析は犯行を秩序型(計画的)か無秩序型(突発的)かに分類し、それぞれの犯人像を推定します。
分析などと言うと難しく感じますが、このタイプの犯行ならこのタイプの人物が犯人だよね、などの推論は経験的に行われてきました。
裁判でも、計画的な犯行か突発的な犯行かで量刑が変わったりします。
では、伊藤さんが訴える犯行はどのようなものでしょうか?
伊藤さんの主張
・犯人はドラッグを利用して同女を意識不明の状態にした(計画性)。
・意識がないのに乗じてホテルに連れ込んだ。
・意識のない同女の体を傷つけた(サディズム)。
・すぐに犯行を行わず明け方に姦淫した(無秩序)。
・同女が意識を取り戻した後も悪びれずに行為を続けた(無秩序)。
・同女の訴えにより一時行為を中断した。
・再び同女を力ずくで襲おうとした(無秩序)。
・パンツ頂戴などの変態的な発言を悪びれず言う(サディズム?)。
・犯行後、何事もなかったように電話をかけてきた(犯罪意識がない)。
・犯人はポリグラフにかけられたが反応は出なかった(犯罪意識がない)。
といったところです(カッコ内は行動の分類です)。
プロファイリング的には、山口さんは秩序型ですね。地位を失いたくないはず。頭がいいのでバレないように考えるはず。そのほかに秩序型の特徴として飲酒しての犯罪、ストレスがある、などの特徴があります。見事に一致するでしょ?
しかし犯罪形態を見ると計画的とは言えません。だって、酒を飲んだ寿司屋は恵比寿の繁華街。こんなところで意識がなくなったら目立たずに運ぶことはできません。
ましてや薬で眠らせて・・山口さんくらいの体格の男性が意識のない女性を運ぶのは無理です。どうにもなりません。その後の行動も突発的で計画的とは言えないものばかりです。
秩序型というのには無理があります。
では、無秩序型ではどうでしょう。
無秩序型の中でも魔が差すタイプの犯罪があります。女性が酔いつぶれたのをみて、これならバレないと思い犯行に及ぶパターンです。高い地位があり知能の高い男でも魔が差すことはあります。
この場合の犯人の心境としては、犯行が発覚しないことが重要です。
なので、酔いつぶれているうちに犯行を行おうとしますし、犯行中に女性が目を覚ましたら慌てふためきます。ましてや女性の体を傷つけて自ら証拠を残すことはしません。
また、心理的に怯えた状態なのでポリグラフで簡単に反応が出ます。任意ならば拒否するでしょう。
このパターンも今回は当てはまりそうにありません。
次に考えられるのが、自暴自棄タイプ。
会社からお叱りをうけ、自暴自棄になっていた可能性を考えてみましょう。
このタイプの特徴は犯行を隠そうとしません。サディズムに走る傾向もあるので体を傷付けられたという女性の主張とも一致します。
しかし、一般的に人間は長いストレスの蓄積で自暴自棄になります。色々あがいた結果、逃げ道が全てなくなり自暴自棄になるのです。
まだまだチャンスがあるのに自暴自棄になる人はいません。
この時の山口さんの状況は会社からお叱りを受ける一方で著書の前評判はよく、楽しみでもあると考えられます。人生を捨てる覚悟はなかったでしょう。
また、このタイプの人は、犯行をすぐに認めます。逮捕され人生がリセットされることが、が今の人生からの逃げ道ですから。
また強い罪悪感を抱きますので、警察の捜査を受けるとあっさりと自供をしますし、ポリグラフにも反応が出やすいタイプです。
このタイプも山口さんの状況とは一致しません。
最後は無秩序型の代表である粗暴タイプ。
基本的に社会的な立場や知能が低く犯罪を繰り返すタイプです。
このタイプは物事を深く考えません。なのである意味なんでもありです。
体に傷をつけるなんてサイコパスも入っている可能性もありますね。
酔いつぶれたから犯す。目が覚めても犯す。
バレて捕まりたくはないけど、訴えられない可能性も高いと根拠なく思い込みます。
伊藤さんの供述が正しいとすると(薬はありえないとして)、この粗暴タイプが一番近いと思います。
しかし、、犯人像があまりにも山口さんとかけ離れています。
また、このタイプは捜査での追及やポリグラフの検査を回避できるほど、物事を考えていません。
よって心理学的に分析すると伊藤さんの主張する犯人像と山口さんは一致しません。
犯行を行なった可能性は低いと見ることができます。